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神戸地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決

原告

(二四七名選定当事者) 森本数一

被告

兵庫県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

本訴請求の趣旨は、

「兵庫県加印地方事務所長山崎長之助が昭和二七年八月一五日選定者二四七名(以下単に選定者等と云う)に課した昭和二七年度事業税賦課処分は何れも無効であることを確認する。」との判決を求めるにあり、その請求原因の要旨は、

「兵庫県加印地方事務所長山崎長之助は、昭和二七年八月一五日付を以て選定者等に対し昭和二七年度事業税を賦課したのであるが、右賦課処分は、選定者等が先に提出した昭和二七年度事業税申告書を基礎として現実に選定者等の同年度事業所得が幾何であるかを個別的に調査することなく、選定者等の昭和二六年度所得税額算定の基礎とされた同年度総所得を機械的に基本として、漫然これを同年度に於ける選定者等の事業所得と認定してなされたものである。然しながら、事業税は所得税の如き国税とは全然別個独立の地方税であり、国税の附加税ではなく、課税方法も国税たる所得税の賦課とは別個独立の調査に基きなさるべきである。然るにこれを無視してなされた本件賦課処分は明らかに地方税法に違反する無効のものである。而して原告は、右賦課処分による課税額の大小、適否を争うものではなく、賦課処分自体の違法無効を主張するものである。」と云うのである。

而して、原告が訴状に貼用した印紙額は金三一〇円である。

当裁判所は、訴訟物の価格を選定者等に対する昭和二七年度事業税額(但し、追貼命令送達当時未だ選定者であつた広田米吉、同牧野重行については各金三一、〇〇〇円)の合計額たる金三、五四七、七一〇円とし、これに応ずる改正前の民事訴訟用印紙法第二条によつて算出した印紙額金一九、二三〇円から既貼用額金三一〇円を差引いた金一八、九二〇円を、命令書送達の日から二週間以内に追貼する様命じ、右命令は昭和三〇年五月一八日(更正決定送達の日)送達されたが、その後二週間を経過するも原告はその追貼をしない。

理由

原告が訴状に金三一〇円の印紙を貼用していることは記録上明らかである。

然しながら、原告は本訴に於て、兵庫県加印地方事務所長山崎長之助が選定者等に課した昭和二七年度事業税賦課処分の無効確認を求めるもので、斯る訴訟の目的たる租税に関する行政処分は課税者と被課税者との間に直接に経済的関係を生じ、その処分の無効が確認されるか否かは直接に被課税者の経済的利益に関係するのである。つまり、右請求が認容されると、原告が賦課されたと主張する前記事業税について原告及び選定者等はその納付義務を免れ、以て経済的利益を享有するわけである。してみれば、本件訴訟の目的は財産権上のものにほかならず、これを訴訟物とする本訴は訴訟法に所謂財産権上の訴である。

従つて、これを非財産権上の訴として改正前の民事訴訟用印紙法第三条により訴額金三一、〇〇〇円とみなすことは正当でない。

本訴が財産権上の訴とすると、次にその訴額が問題となる。

ところで、本訴は、原告を選定当事者として、選定者二四七名の各人に賦課せられたと主張する事業税賦課処分無効の確認を求めるもので、その各人につき各一個の請求が存し、結局一の訴を以て二四七個の請求をなすものであるが、斯様な請求についても併合の要件が具備するものとして本訴を提起しているのであるから、斯る前提をとる以上、その訴額は民事訴訟法第二三条第一項に則り、各請求の価格、即ち、本訴請求が認容されることによつて直接に原告及び選定者等の受ける各経済的利益の合算額と云うべきである。而して原告は選定者等に課せられたと主張する前記事業税の額について、その大小、適否を争うものではなく、賦課処分自体について、それが所定の調査に基かない違法が存すると主張し、右賦課処分の全面的な無効確認を求めるものであるから、本訴認容により選定者等は右事業税の納付義務を全面的に免れるのであり、従つてこれにより選定者等が直接に受ける経済的利益は、右事業税額そのものと云はねばならない。そして、当裁判所が職権を以てなした調査嘱託に対する加印地方事務所長の回答によれば、選定者等に対する、本訴提起の日であること記録上明白な昭和二八年五月一八日までに賦課並に更正せられた前記事業税の最終額は、夫々別紙目録記載の通りである。而して、追貼命令送達当時未だ選定者であつた広田米吉、同牧野重行については昭和二七年度の同課税額を知ることが出来ず、その訴額は算定することが出来ないが、原告は同人等に於てもとに角右賦課処分を受けたと主張し、その無効確認を求める以上、その訴は財産権上の訴であることは前説明の通りであるから、前記民事訴訟用印紙法第三条第一項の精神を類推してその訴額を夫々金三一、〇〇〇と算定すべきである。而して以上の合計額は金三、五四七、七一〇円であることは計算上明らかであるから、本訴の訴額はまさに右金額と云わねばならない。

仍て右訴額に基き、前記民事訴訟用印紙法第二条により算出した相当印紙額金一九、二三〇円から、既貼用額金三一〇円を差引いた金一八、九二〇円の追貼を原告に命じたところ、原告は事実記載の通りこれに応じないので、本訴は不適法なものであり、この欠缺は補正し得ない場合であると認め、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 谷口照雄 大西一夫)

(別紙省略)

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